マルズログ

 ランニングと日々の雑記帳

「白馬」回想記

 

「お客さん!猿倉行きなんて出てないですよ・・・」

「えー?、白馬方面の・・・猿倉なんだけど・・・」

『エッ!‥‥‥‥大町?、扇沢‥‥‥?!』

『いったいどこで‥‥「大町」と「白馬」をまちがえた?‥‥‥』

次の「白馬」行きの列車は30分後、「新宿」発「特急サンダーバード

これに乗れないと最終バスに間に合わない。結局、1700円の大出費。

 

終点、「猿倉」で降りた乗客の大半は「猿倉荘」泊まりで、

歩きはじめると前後に人影はなく、「北俣入」の沢音だけが

ずっと一緒についてくる。

小一時間で「白馬尻小屋」の屋根が見え、大雪渓から吹き出す

雪解け水のすごい音が聞こえてきた。

小さな広場の片隅に一張テントがあったが、テン場なのかどうかわからない。

届けを出してもどると、良い場所は取られて狭いテン場はすぐに満パイ、

標高のわりに夜間は冷え込み、沢のごう音に一晩中悩まされた。

 

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翌朝六時過ぎ、大雪渓に入ると、蟻の行列みたいに登山者が、

雪渓の真ん中を点になって繋がっている。いまにも滑り出しそうな

小さな冷蔵庫くらいの岩が、辺りにころがって、

赤い「ベンガラ」で引かれたラインにそって黙々と登って行く。

ときどき、「カラン〜」と落石の音が聞こえるたびに

顔を上げて「天狗菱」の岩峰を見上げる。

高度が上がるにつれ「ザラザラ」と、頻繁に崩壊音が聞こえだし、

見ると小さな土砂崩れが右岸の雪渓に音も無く吸い込まれていった。

やがて「葱平」に着くと、大人数のパーティーが、不安定なガレ場に

腰をおろし、アイゼンを靴からはずしているが、ここで落石でも起きたら

ヤバいなと思った矢先、子どもの頭くらいの岩がその間をかすめて落ちていった。

みんな斜面に背を向けているから気付かないし、リーダーも見ていない。

もし誰かに当たっていたらケガではすまない。ここだけに限らず、

山でひやっとすることは、以外にも周りに人がいる中で

起きることが多いようだ。10 日後、この少し上の処で、

大雨による土石流が発生して3人の遭難事故が起きている。

「白馬」の「大雪渓」は人気ルートで登山者も多いが、

同時に危険区域の崩壊地でもある。

 ようやく左の稜線上に小屋が見えてくると、ガスに隠れて雨になってきた。

「頂上山荘」のテラスに着くと、すぐに裏のテン場にテントを設営、

最初は2、3張りだったが、夕刻には合宿パーティーも入ってきた。

夕刻、すぐ上の「丸山」の稜線に上がってみると、

大きな雪渓を抱いた「南岳」が優雅な姿を現した。

写真でも見たことのない山で、こんな良い山が「白馬」の隣にあるとは、

まったく知らなかった。

今年の八月も昨年同様、盆以降はっきりしない天気がつづいて、

梅雨明け宣言が早すぎたのと、温暖化の影響での異常気象もあって、

九月に入っても天気は安定しない。落雷も多くて、先週「三国境」あたりで

登山者が被雷し重傷を負ったらしい。

 

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翌朝四時頃、外をのぞくと、どんよりとした空、昨日から「杓子」方面の雲が

取れないことを考え、コースを「北方稜線」に変更する。

きのう上がったコルから「白馬山荘」まで、ガスの切れ間を往くと、

先にぼんやりと「白馬岳」の山頂が見えてきた。

ときどきガスの切れ間から「杓子」が見え、「槍」も遠くに顔を出すが、

予想どおり、信州側は一面ガスの海で、対象的な富山側は空も明るく、

薄雲がひろがっている。

山頂のガスが切れると、岩場に朝露をつけた「チシマギキョウ」が

朝陽をあびて鮮やかなムラサキ色に輝き、「南岳」の北面は岩壁をまとい、

「鉢が岳」から「雪倉」の稜線が、北へゆるやかにのびている。

  

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ふと見ると、山頂の岩陰で、小さい姉妹が寄り添うようにして

おにぎりを食べている。二人とも少し眠そうで、

下の子はまだ小学校にも上がってないくらいで、

深く被った帽子にポニーテールが可愛いらしい。

しばらくすると、野球帽のお姉ちゃんが先に降りて行き、

こちらに向かってさかんに手を振っている。

それに気付いたお父さんが、下の子の手を引きながら後を追いかけ

降りていく。つづいて少しあとから、

お母さんがゆっくりと降りていった。 

 

やがて「馬の背」を過ぎ「三国境」から「小蓮華岳」まで、

お花畑の稜線だけに、「シナノキンバイ」、「ハクサンイチゲ」、

「イワギキョウ」、「チシマギキョウ」「ハクサンフウロ」、

ミヤマアキノキリンソウ」と、高山植物の代表格がづぎつぎ登場して、

撮影に夢中になってる間に、ロープの張られた「小蓮華岳」山頂についた。

 

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そこへ、大きなカメラバックと三脚を担いだ髭の先生が現れて、

いきなり、独り言のようなレクチャーが始まった。

まず、皆が何んで……?と思っている、山頂のロープのことからはじまて、

少し前に、原因は不明だが、「小蓮華岳」山頂は崩壊して危険なので、

山頂は立ち入り禁止になっているらしい。

標高もすこし低くなったけど、それでも新潟県の最高峰には変わりなく、

かなり大雑把なご説明だか、声が大きいので皆なるほどと聞いている。

地元にお住まいの先生も、この夏は天候不順で、「白馬」の山頂は

ふもとからも一度しか見えなかったらしい。

さらに、先の落雷事故に遭ったパーティーは、

「雪倉」の避難小屋に逃げ込んで、難を逃れることができたという。

つぎつぎと話が途切れなくつづき、一緒にいた四、五人のパーティーも

なかなか腰を上げれない。

その時、絶妙なタイミングで、救世主のようなお友達が現れ、

ようやくお話がストップすると、この時とばかりに皆いっせいに腰をあげた。

見ると同じカメラバックにでかい三脚、まるで双子の兄弟みたいだ。

 

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雷鳥坂」の途中か、どこかで追い越したのか、「白馬大池」に着いても、

広場の人達のなかに、あのポニーテールの女の子の姿が見えなかった。

昼の仕度をはじめると、いきなりどこかからあの子が小走りで現れると、

また、その後をお父さんも追いかけてきた。

 

火山の堆積物でせき止められた「大池」周辺は「チングルマ」の

大群落がひろがり、「乗鞍岳」にかけて大小さまざまな岩が重なり

「ウラジロナナカマド」の低木が白い花をつけている。

池にそってつけられた岩のごろごろする路が、ゆるやかに「乗鞍岳」へと

のびて、火成岩の積み重なったなだらかな山容は、ガスがかかると目印も

なく迷いやすい。山頂には大きなケルンの遭難碑が立っている。

「天狗が原」への下りは途中に雪渓やガレ場を通過して、

植生がいっきに変わると、ひろい湿原地帯があらわれる。

木造の遊歩道が途中で「風吹大池」への分岐路を分け、ロープが張られた

水平道がくねくねと続いて、 木道もすぐに岩の重なる下り坂にかわり、

どんどん標高を下げ「栂池自然園」に降りて行く。

 

「白馬」から随分ながい下りで、ようやく「栂池」まで降りてくると、

女の人が近づいてきて、親子の登山者を見かけなかったかと尋ねてきた。

すぐに、「乗鞍岳」手前で追い越した親子を思い出し、

おとうさんが、岩のゴロゴロしてる場所で、息子に足の置き方、乗せ方を

熱心に教えていた。

そのとき、この調子ならえらく時間がかかりそうだと思ったが、

気休めも云えないし、「え〜、多分その親子でしたら、途中で追い越して、

ゆっくりでしたので、ちょっと時間がかかるかも知れませんね・・・」

追い越してからのことは実際わからないので、

本当のことしか云いようがない。

 

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「栂池」には前に一度、撮影で来たことがあるが、季節が違ったけど、

当時は、建物も村営の「栂池山荘」と「栂池ヒュッテ」の二つだけ、

人影もまばらで閑散としていた。

ブルーベリーのソフトクリームを食べると、ロープウエイとゴンドラリフト

乗り継いで、いっきに山麓まで一直線、あっという間に蒸し暑い下界に

降りてしまった。

当初ここに降りる予定じゃないから、さて、どうしたものか?

道路沿いの観光案内を見ていると、タクシーの運転手が近づいてきて、

急ぐとまだ最終の特急に間に合うという。お客が連れを探してずっと待っている

からと・・・、見ると同じような山から降りてきた兄さんが、

にやにやしながらこちらを見ている。

たしかに最終特急に間に合わないとえらいことだが・・・、

詳しいことはよくわからないけど、乗ることにした。

はじめに確認しなかったが、特急といっても、相棒は「新宿」行き、

こちらは「名古屋」、いったいどっちなんだ・・・?

けっこう時間がかかって、着いた駅は「白馬」・・・?

手前にもっと近い駅があったのでは・・・?

時刻表などないからよく分からない。

缶ビールを買ってベンチに座ると、飲み切らないうちに「松本」行き

普通電車が入ってきた。ひょっとして「白馬」まで来なくても・・・

缶ビール片手に相棒にたずねると、「えェー、私も今それを考えてまして・・・」

「オーィ、待ってる間に聞いてなかったのかよ・・・???」

相棒とは「松本」まで地元の高校生とかに混じって、各駅停車で二時間、

山の話とやら・・・、退屈もせず・・・、

ようやく「松本」に着いて、相棒と別れ乗り換えホームに降りると、

特急「しなの」が計ったようなタイミングで滑り込んできた。 

 

 

* 今年最後の更新になりますが、購読していただいたみなさん

どうも ありがとうございました。よい年をお迎えください!